2020年11月21日土曜日

Bohemian Rhapsody (2018)

どっちかというと、Queen の音楽はそれほど好きな部類ではありません。
それでも "Bohemian Rhapsody" はいい曲だと思います。はちゃめちゃな展開にオリジナリティを感じます。

この映画は、1970年の Queen 結成から 1985年のライブエイドまでの期間の Freddie Mercury の人生の映画です。

この映画を見るまでもなく、Freddie Mercury は規格外の人間です。規格外だからこそ、あれほど成功し、人々の心を掴み、人からはみ出し、生き急いだのでしょう。
ロック・パフォーマーであることと、ゲイであり乱痴気騒ぎを繰り返したことは必然的に結びついています。
抑圧された移民の子である孤独な青年が、Mercury というスーパースターになりきり、エゴを全開していったのでしょう。
私はゲイの人の気持ちは分かりませんが、パーティで心が開放された、と Freddie が言っていたのは頭に残っています。

この映画は大ヒットしましたが、今見るとどうしてそれほどヒットしたのか分かりません。
やっぱ、音楽の力なのかなぁ。
ドラマチックなストーリーではあるんですが、それと音楽の力が結びついて、感動にまでなるんでしょうね。
そしてウェンブリーの大観衆の一体感。
音楽の感動って頭で考えるものじゃないです。

  • Director: Bryan Singer
  • Cast: Rami Malek, Lucy Boynton, Gwilym Lee...


2020年11月3日火曜日

スワロウテイル (1996)

岩井俊二監督の問題作。役者がみんな若い、と思ったら、もう20数年前の映画なんですね。

三上博史の演技はわざとらしくてあまり好きじゃないんですが、この映画は逆にそれがうまくはまっているように思います。

舞台は日本の架空の都市で、移民たちが暮らす街。中国語、英語、日本語、それらを混ぜた言葉が入り混じる、まさに無国籍の世界です。"アキラ"を彷彿とさせる、近未来の無秩序です。

移民たちは、娼婦やゴミから売れるものを探す、といった最底辺の暮らしの中で、一獲千金を夢見ています。これは「活気」なんでしょうね。バブル後のまだ日本にあった「活気」、上を目指す熱気、ハングリースピリット、そんな残像がここにはあります。

今の日本にはない、懐かしささえ感じます。

今は中国なんでしょうね。

音楽は小林 武史とChara。主題歌 "Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜" はヒットしましたし、いい曲です。


監督:岩井俊二
出演:三上博史、Chara、伊藤歩、江口洋介、アンディ・ホイ、渡部篤郎、山口智子、大塚寧々、桃井かおり
音楽:小林 武史


2020年10月25日日曜日

Crimson Tide (1995)

Steely Dan の "Deacon Blues"

"They got a name for the winners in the world
I want a name when I lose
They call Alabama the Crimson Tide
Call me Deacon Blues"

アラバマ大学のフットボールチームの愛称 "Crimson Tide"
原子力潜水艦アラバマから来たタイトルです。

キューバ危機のときソ連の潜水艦副艦長が反対して核魚雷が発射されなかったエピソードを下敷きにしたストーリーのようです。

№1と№2の相克。実際の組織でもよくありがちな事態だと思いますが、そうなると組織はズタズタになります。士気が下がり、組織の指揮命令系統が緩み、結果として組織能力が著しく下がります。
反対意見はみんなの前では言うな、と艦長は言いますが、そのとおりでしょう。

艦長も副館長も自らの信念に沿って行動しますが、どちらも正しいと言えます。
軍人として政治に介入せず、命令を実直に実行することに専念するのは正しい。
一方で、一市民として自分の正しいと思う行動をすることも正しい。

究極の選択の場面での究極の行動です。


Director : Tony Scott
Screenplay : Michael Schiffer, Richard P. Henrick
Cast : Gene Hackman, Denzel Washington


2020年10月24日土曜日

First Man (2018)

"La La Land" と同じ監督とは思えない、沈鬱な映画でした。

First Man とは、言わずと知れた Neil Armstrong のことです。

アポロ計画は人類の夢への到達と、計り知れない知性と努力の結晶です。
そんな映画を期待したのですが、まったく違うトーンでした。

ソビエトに先を越された失地回復のアメリカの状況。
発展途上の技術。
その中で、いつ事故に巻き込まれるかもしれない恐怖。
仲間の死の連続。
何度も起きる失敗。
家族の心配。

Neil Armstrong の職業はテストパイロットです。軍のテスト機をテストし、幾度も危ない目に遭いました。ジェミニ計画に選ばれてからも、完全ではない宇宙ロケットへ乗り込むということは基本テストなんでしょう。

人はパイロットであると同時にモルモットなんですね。

そんな中、Neil は冷静沈着な態度で、どんな危機にも対処していきます。船内の猛烈な揺れ、騒音、小さくみえる外部などが、その困難さを演出しています。

月のクレーターに投げ入れたのは、死んだ娘のブレスレット。

月への一歩も、感動というよりは、ミッション・コンプリート。


Directed by Damien Chazelle
Screenplay by Josh Singer
Based on the book by James R. Hansen
Cast : Ryan Gosling, Claire Foy, Jason Clarke


海街diary (2014)

まさしく diary。4姉妹の日常です。

  • 自分たちを捨てた父の葬儀と、すずの引き取り
  • サッカーチームでの活躍
  • 花火大会と庭の花火
  • 母とのケンカ
  • 海猫食堂の女将の死
  • 不倫相手の海外移籍と別れ

など、それぞれの人生の変化や進化はありますが、ドラマチックに展開はしません。

是枝監督の共通項なのか、やはりここでも家族という「居場所」が描かれてます。

それとセリフの「アレ」ですよね。

全体的には、4人が美人なので、見ていて楽しくなります。


  • 監督・脚本・編集:是枝裕和
  • 原作:吉田秋生
  • 出演:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、大竹しのぶ、堤真一、風吹ジュン、リリー・フランキー、樹木希林 他


2020年9月21日月曜日

七つの会議 (2018)

「半沢直樹」「下町ロケット」の流れに沿った、池井戸潤作品の映画です。

監督は「半沢直樹」シリーズの福澤克雄で、香川照之、及川光博、片岡愛之助、立川談春、北大路欣也など、ほぼファミリー化している俳優陣の中で、異彩を放っているのが主人公八角役の野村萬斎です。狂言師というのがどれほど映画俳優と共通項があるのか知りませんが、この存在感は独特です。飄々というか、気が抜けているというか、コミカルというか。

小説は読んでいませんが、元々7話で構成されていて、1話ごとに主人公が違うようです。1話ごとに主となる会議があるのでしょうか。第1話の主人公である八角が、映画の主人公になっています。

池井戸小説のテーマである企業エンターテインメント、サラリーマン応援歌ですが、テーマがデータ偽装。免振ゴム、アルミ鋼材、排ガスデータと偽装は絶えませんが、この映画のような巨悪があることはほとんどないのでは、というのが僕の実感です。確率論と経済性の天秤、異常値は除くという組織の論理が優先され、同調圧力と前からこうやっていたという追認で、悪意なく偽装に加担していく構図でしょうね。誰も悪くないだけにたちが悪い。

小さなことでも疑問を言える、変えることに躊躇しないという風土が大切なんでしょうね。

監督:福澤克雄
出演:野村萬斎, 香川照之, 及川光博

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2020年9月20日日曜日

海よりもまだ深く (2016)

是枝裕和監督はすごい!

「万引き家族」ではニセ家族を描いて癒されましたが、2016年のこの映画は、共感というか代弁というか深く心に入ってきました。

テーマは「こんなはずじゃなかった人生」。

結婚の破局、小説家稼業の挫折。こうあったらいいな、と願いつつ現状に満足できず、空虚な毎日を過ごす人生。

母の小さな財産をくすね、父の骨董を質入れし、ギャンブルに身を焦がす。

母は息子を優しく見守りながら、日々の中に幸せがあることをさりげなく諭します。

元妻は次の人生へスタートを切り、男は決心したのかしないのか、また人生の続きを始める。

永遠に子どもなのだ。でもいつかは子どもから脱する時が来るのか、大人にならないといけないのか。「愛と青春の旅立ち」のザックはフォーリー軍曹のしごきによって大人に旅立ちましたが。

「海よりもまだ深く」は、テレサ・テンの「別れの予感」の歌詞の一部、台風の夜のラジオで流れたときに、母が「海よりも深く人を愛したことはない」と言います。そんな劇的な恋がなくても人生って味わえるのだと。

過去も未来もなく、今生きているこの瞬間こそが全てなのだ、というのは禅の教えだったでしょうか。

しかし「こんなはずじゃなかった」「どこで間違えたのか」と悔やみながら、そのどうしようもない続きの人生を生きて行くのも人間。「今を生きる」。

結局この映画でも癒されました。

監督:是枝裕和
出演:阿部寛、樹木希林、真木よう子、小林聡美


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2020年9月9日水曜日

Darkest Hour (2017)

ウィンストン・チャーチル / ヒトラーから世界を救った男

ウィンストン・チャーチルの首相就任後1ヶ月の苦悩を描いた映画です。

チャーチルは電車にも乗ったことのない貴族であり、演説の得意な自信家であり、ドランカーであり、主戦派として描かれていて、事実そうだったと思われます。

首相就任の最初の演説は、自らの保守党から総スカン。保守党は、チャンバレンとハリファクスによる宥和派が主流だったからです。

ナチス・ドイツがベルギー、フランスへ進攻する中、いよいよ次はイギリスという状況になりつつあり、流石のチャーチルも、ドイツとの和平交渉へ動くかどうかを深く悩みます。

暗闇の部屋へ訪れたのは、ジョージ6世。気に食わないチャーチルに賛同します。そして市民の声を聞くようアドバイスします。市民の声に後押しを受けて、チャーチルは演説に臨みます。

政治家として1つ成長した、というストーリーかと思います。


ここでイギリスが踏ん張らなかったら、という意味で、チャーチルは自由主義陣営の英雄のごとく扱われます。宥和論の中で一人主戦論を張り、全体主義と戦った、と。

しかし、これこそ「勝てば官軍」ではないかと思ったりします。

日本も八紘一宇の理想を掲げて戦争をしました。僕が一番バカだと思うのは、パールハーバーを攻撃してから1年半後にはミッドウェーでターニングポイントを迎えておきながら、そのままま3年も戦争を続けた戦争指導者の無能さです。最後には本土玉砕を掲げて、市民を巻き添えにしていきます。

しかし、これはチャーチルと何が違うのか。チャーチルの勇気はかいますが、冷静さを欠いた判断だったかもしれません。多くの市民の犠牲を払いました。アメリカが参戦しなければ難しい局面に立たされていたでしょう。パールハーバーを一番喜んだのはチャーチルだったかもしれません。

歴史は勝者によって正当化されます。

日本は敗者になることによって、否が応でも反省することになりますが、おそらく勝者には反省はないでしょう。

Director: Joe Wright
Writer: Anthony McCarten
Cast: Gary Oldman, Lily James, Kristin Scott Thomas


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2020年8月27日木曜日

ローレライ (2005)

不思議な映画でした。

太平洋戦争の末期を舞台にして、女性の人間探知機が活躍するという、戦争ものとファンタジーがまじりあったおかしな世界です。

潜水艦"伊507"は、広島、長崎の後に東京に原爆が投下されることを必死に阻止しようとし、見事に成功させます。

話が突飛すぎて、なぜ東京に原爆が投下されようとしたのか、それがローレライ確保とセットになっているのはなぜか、首謀者は最後自殺するが、本当の狙いは何なのか、さっぱりわかりませんでした。

ただ、乗組員の、国を守ろうとする心意気だけは感じました。

原作:福井晴敏
監督:樋口真嗣
脚本:鈴木智
出演:役所広司、妻夫木聡、柳葉敏郎、香椎由宇他


2020年8月14日金曜日

My Left Foot (1989)

脳性小児まひで左足しか使えない、画家で作家の Christy Brown の伝記映画です。
1989年というのは、僕が社会人になって2年目ですが、当時この映画のことは全く知りませんでした。
というか、話題にもならなかったんじゃないでしょうか。

場所はダブリン、レンガ職人の貧しい家の22人兄弟の10番目として Christy は生まれます。
周りに厄介者と思われていた Christy ですが、家族やドクターの支えで、文字を書き、絵を描くようになり、結婚をします。

まずは家族ですね。母は Christy を見守り、認め、たくさんいる兄弟は Christie を優しく応援します。
Christie 自身もジョークで家族を和ませます。
ドクターは発声方法を教え、本を与え、恋の味を教えます。

映画では、家庭のいいところしか描いていませんが、きっと大変な思いをしてきたことでしょう。

Christy が感情をうまくコントロールできないところも描かれてます。感情をコントロールすることの訓練が足りないのか、そもそもコントロールできない障害なのか。

Director: Jim Sheridan
Cast: Daniel Day-Lewis, Brenda Fricker 


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2020年8月10日月曜日

The Way We Were (1973)

追憶

Barbra Streisand の映画を見たのは実は初めてでした。
ユダヤ系で、ブロンクス育ち。ついでに強烈な民主党支持者。
この映画は彼女のために作られたようにも思います。

はっきりした顔立ちではあるものの、超美人ではないことが彼女の強みかもしれません。この映画のようなラブロマンスの場合、ちょっと応援したくなります。特に、相手が絵に描いたような美男子 Robert Redford ですからなおさらです。

この映画では主人公 Katie の一途さ、頑なさが印象に残りました。
真っ直ぐな目。
一方の Hubbell は、裕福な優男。彼の初小説どおり、母国同様イージーな人格です。

人間というものはお互いが持っていないものに惹かれるんでしょうか。しかし、その違いが許容範囲を超えると破局を迎えてしまう。
悲しいですね。

愛情はそれを乗り越えられない。

主義主張的には、イージーなアメリカという国に対して、キチンとものゴトをやろうとするカウンター・イデオロギーの対立を主人公たちに仮託しているみたいに見えます。

タイトルから言えるのは、過去形であること。あの日の恋。あの日の生き方。
基本的には、「マリーゴールド」と同じです。
誰にでもあるような過去は共感を得やすいんでしょうね。

Katie の強い眼差しは、大江千里の「REAL」を思い出させました。


Director: Sydney Pollack
Writer: Arthur Laurents
Cast: Barbra Streisand, Robert Redford, Bradford Dillman


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序の舞 (1984)

上村松園の生涯を描いたということで、かなり興味を持ってみました。

まあ、モデルであって伝記ではないので、かなり脚色が入っていることは素人目に見てもわかりました。

一方で、絵を描くことへの一途さは伝わってきました。

女の哀しさを表したかったのかもしれませんが、そんなことよりも、絵への一途さ、絵が優先順位が一番高かった人だったんだな、ということを強く感じました。

その代わり、絵を描くこと以外は不器用というか、うまく生きられないというか。

そりゃそうですよね。絵に集中してるんですもん。そんな人生カッコいいなあ。

絵以外では、男をうまく利用しているようにも取れ、一方で男からうまく操られているようにも取れ。物事の前後をあまり考えず、一方でしたたかさもあるような。

宮尾登美子の原作では、松園の母が主人公のようですが、映画では松園本人が主人公です。名取裕子、当時26歳、ほとんど映画経験のない中、いい感じを出しています。今の大御所感ゼロでフレッシュなのがグッド。

また、映画の全体的な雰囲気を作り出しているのが全編にわたって使われている京言葉です。はんなり、やんわり。今は関西弁の一型体みたいになってますが、こうやって聞くと、明らかに違いますね。京の街、京の言葉、京の人々、この映画を作った人たちは、京を描きたかったんだろうと思います。


監督:中島貞夫

出演:名取裕子, 岡田茉莉子、佐藤慶, 風間杜夫、水沢アキ


2020年7月24日金曜日

Out of Africa (1985)

愛と哀しみの果て

1910年代の植民地主義ありありの貴族ドラマを、なぜ1980年代に映画にしようと思ったのでしょう。
アフリカ先住民の土地を奪い、安い労働力として使い、文明を押し付ける。
動物を狩り、象牙を売る。
今ではNGのことですが、80年代は気分的に許されたのでしょうか?

原作は日本語タイトル「アフリカの日々」どおりのようですが、その日々の中から、映画ではデニスとのラブ・ロマンスにフォーカスを当てています。
孤高のマサイ族のようなデニスをアフリカそのものに見立てたところは、優秀な映画スタッフのなせる技でしょうか。
所有を求める主人公と自由を求めるデニスは、ヨーロッパとアフリカの関係です。

サファリの真ん中でも、ディナーにはワインという貴族の生活様式と、植民地主義の思考には共感できませんが、アフリカの大地の自然の映像は素晴らしいです。
一面に広がる緑の大地、動物の大群、夕暮れの空に背の高い木のシルエット、襲いかかるライオン。

植民地時代がめちゃくちゃにした世界を元に戻せずに、今でも後遺症に悩まされています。

監督:Sydney Pollack
出演」Meryl Streep、Robert Redford

2020年7月22日水曜日

記憶にございません! (2019)

人間人生やり直したいと思うことはあるもの。
その気になればいつだって人生やり直せる、というメッセージはポジティブでした。

人とのしがらみ、こじれた家族関係、地位への未練、諦めた理想…
主人公は、石が頭に当たって記憶喪失になったことを契機に、人生を見事にやり直しました。
でも、記憶喪失はキッカケであって、本質ではありません。
何かのキッカケがないかと、言い訳を探すよりも、自分で一歩を踏み出そうよ、と言われてるみたいです。

コメディとしては、けっこう笑えました。コント的要素が強いんでしょうか。
こんな感じは確かに中井貴一なんでしょうね。頼りないところとビシッとしているところを演じ分けていて、貫禄です。

国会中継で放送を通じてストレートに妻にメッセージを言うシーンが、やっぱり一番印象に残りました。愛のメッセージは直球が一番。なかなか言えんけどね。
なかなかいい映画です。

監督・脚本:三谷幸喜
出演:中井貴一、ディーン・フジオカ、小池栄子、石田ゆり子、草刈正雄、佐藤浩市、吉田羊、斉藤由貴、ROLLY、濱田龍臣

公式サイト:https://kiokunashi-movie.jp

Murder on the Orient Express (1974)


オリエント急行殺人事件


Agatha Christie のミステリーの1934年のミステリーの映画化です。

ストーリーは知っての通り。
全員が容疑者で犯人、誰がではなく、みんな、という奇想天外の謎解きですが、Agatha Christie らしく、それほど込み入った内容ではなく、人生ドラマを散りばめた、エンターテインメントですね。
こういうのって、みんな結論を知ってるわけですから、どのあたりをハイライトにするんでしょうね?

Sean Connery に Ingrid Bergman が出演していますが、なんと助演。しかも最重要の役回りではありません。なんとも贅沢な使い方です。
そんな中で、Poirot を演じた Albert Finney の怪演が光ります。かなりの変人の雰囲気を出し、独特のしゃべり口。それでいておかしみがある。

殺人事件という一見恐ろしい物語ですが、何かしら陽気さをもたらす映画でした。

ちなみに、オリエント急行殺人事件は2015年にフジテレビがテレビドラマ化して放送してました。
野村萬斎の探偵は、かなりこの1974年の Poirot の影響下にあると思います。
オリジナルでは、多国語の違いが謎解きのキーになっているのを、方言に置き換えたりしてよく日本語でやったなと感心します。

原作:Agatha Christie
監督:Sidney Lumet
脚本:Paul Dehn
キャスト:Albert Finney, Sean Connery, Ingrid Bergman, Anthony Perkins, Lauren Bacall, Jacqueline Bisset

Clear and Present Danger (1994)


今そこにある危機


1992年の”パトリオット・ゲーム”の続編に当たります。パトリオット・ゲームで妊娠中だった子供は、赤ちゃんになってます。

“Clear and Present Danger” というのは、アメリカ大統領のセリフの一部です。
発言の意図を汲み取り、CIAは軍隊を動かした秘密作戦を実行していきます。
麻薬の取引と巨大な金が動く政治の動きと並行して、麻薬組織の下克上の動きが絡み、殺人、裏切り、襲撃、戦闘が発生していきます。
CIA内部の抗争と、大統領の思惑、一部の人間の単独判断、失策を表沙汰にしたくないための行動により物事がエスカレートしていき、フィナーレを迎えます。
Tom Clancy 的な映画でした。

見所はやはり、Harrison Ford のアクションでしょうか。基本分析官なので、自ら危ないことはしないはずですが、襲撃されたり、人の救出に向かったりと、所々で危険を顧みず大胆な行動に出ます。特殊訓練を受けてないはずなのに、よくまあ生き残れてますね。

原作:Tom Clancy
監督:Phillip Noyce
キャスト:Harrison Ford, Willem Dafoe, Anne Archer, Joaquim de Almeida, Henry Czerny, James Earl Jones

空母いぶき (2019)

沈黙の艦隊は画期的で面白かったですよね。
まあ、その路線といえばその路線。
漫画では中国軍との戦闘のようですが、さすがにそれでは防衛省の協力を得られなかったのか、架空の新興国が相手となっています。その分ちょっとリアリティが薄れ、フィクション度が上がっています。

テーマは「戦争」を避けるための「戦闘」です。自衛隊という特殊な軍隊を持つ日本のギリギリの努力のシミュレーションでしょうか。
そこには最前線の自衛隊員の判断の1つ1つが重要な意味を持ちます。大変な仕事やなと改めて思います。こんなのは普段、日頃から考えて、体に染み込ませてないと判断を誤るでしょうから。

主人公のいぶき艦長秋津は、いつも余裕の笑みをたたえながら的確な判断をしていくスーパーマンです。マスコミも利用した社会を巻き込んだ動きも見せ、戦略眼、理念、判断、理解、先を読む力に長け、結局映画の中ではフォルトはありませんでした。
そういう意味では人間味がなく、正直共感できるキャラではありません。悩みがないんですね。
主人公以外の人間は、悩み、迷い、その時々の事件に一喜一憂します。まあ、その対比が楽しみどころなのかもしれません。

我々は戦争を放棄します、と宣言しても、周りが戦争を仕掛けてきたら国を守るために戦争をするしかありません。安全運転してても事故に遭うのと同じです。
コスモポリタン的な平和を憧れますが、一方で民族的独立・文化の維持、経済的意図、地域解決主義、イデオロギー対立など、分派的な動きも否定できるものではありません。その危ういバランスの中に社会がある以上、最終的な暴力手段を持っておかなければならないんでしょうね。警察のように。
それと、みんなで安全運転しましょう、と啓蒙していくことでしょうか。民主国家でない場合、国体を維持するためにどうしても軍隊を必要としますので、民主化を求めていくこととイコールなのかもしれませんが。なかなか難しいところです。

原作:かわぐちかいじ
企画:福井晴敏
監督:若松節朗
脚本:伊藤和典 長谷川康夫
キャスト:西島秀俊、佐々木蔵之介、本田翼、佐藤浩市、中井貴一、片桐仁、斉藤由貴、市原隼人

公式サイト→ https://kuboibuki.jp

2020年7月5日日曜日

亡国のイージス (2005)

朝鮮人が自衛隊の幹部と組んで、イージス艦を乗っ取るという、無理やりな設定はどうかと思いますが、エンターテインメントとしては許せる範囲かも。

艦の内部や、ミサイル発射装置、戦闘機の飛行シーンなんかは、自衛隊の協力なしには難しいでしょう。今ならCGで描いちゃうかもしれんけど。
最初に自衛隊に協力依頼をした時は断られたらしい。現役の艦長が謀反を起こすような映画はけしからん、と。2回目は石破防衛大臣が許可したらしい。その代わりに艦長が副長になったようですが、そこに違いがあるの?

主人公は、真田広之演じる伍長です。人情味厚く、面倒見がいい、といういかにも軍隊の現場責任者らしい設定です。
艦のことを知り尽くした彼が、まさかの行動で東京を救います。ただ、その動機は、仲間を助けたいがため、ですが。
彼のような人をヒーローと呼ぶんでしょうね。

敵側の論理とシチュエーションはめちゃくちゃですが、それに対する主人公側の行動は共感できます。一人の力が強大な組織に対置し、事態が大きく動いていく。
自衛隊版の踊る大捜査線です。

原作:福井晴敏
監督:阪本順治
キャスト:真田広之、勝地涼、佐藤浩市、中井貴一、寺尾聰、原田芳雄他

2020年6月26日金曜日

The Spirit of St. Louis (1957)

“Spirit of St. Louis” というのは、Lindbergh が大西洋単独飛行用に作った飛行機の名前です。

当時25才。若者らしい冒険だと思います。
飛行機に乗り出したのが1922年で、この大西洋単独飛行が1927年なので、たかが経験5年だということに驚きます。
しかも飛行機は特注。大西洋を超えるためのガソリンをたくさん積むためでした。ガソリンタンクを大きくしたため、前方の視界は犠牲になり、視界はサイドからにしました。この物語の主人公は Lindbergh 本人ですが、“Spirit of St. Louis” 号が一番の成功の立役者であることは間違いありません。飛行機がよく墜落しておいた時代において、技術者にとっても大きなチャレンジだったと思います。

映画を見ると当時の飛行スタイルが、かなりの低空飛行だったことがわかります。大きな船ができるまでは、沿岸に沿って航行するのが普通だったことと似ています。だとすれば、洋上は頼るものがなく不安でしょうし、一番の危険だったことと思います。

映画は飛行の前日から始まり、パリに着陸するまで、それまでの Lindbergh の飛行人生をフラッシュバックする進行になっています。じゃないと、変化のないコックピットは映画向きじゃないですからね。

当時 James Stewart は47才でその年齢が酷評されたようですが、何もドラマチックでないコックピットをドラマチックに演技しきってます。

冒険とチャレンジが成功につながるのは、いつの時代でもいいものです。

ちなみに、日本題「翼よ!あれがパリの灯だ」は、セリフにもどこにも出てきません。

Directed by Billy Wilder
Cast : James Stewart

2020年6月13日土曜日

Rocketman (2019)

イギリスで Freddie Mercury と並ぶクレージーでナイーブなゲイといえば、Elton John
Bohemian Rhapsody の次に選んだのは、Elton John というのは正解なのか。
しかも、ミュージシャンの伝記的映画にミュージカルで良かったのか。

僕自身は、Elton John のロックンロールはあまり好きではないのですが、”Daniel” は好き、程度のファンですが、楽しめました。彼の音楽の力はこの映画でも堪能できます。
Elton John の名曲ばかり22曲。
メロディは心を揺さぶる力を持っていて、このメロディを作れるのは、傑出した才能です。しかも何曲も。

映画は、90年頃に更生施設に入った頃の Elton がそれまでの人生を振り返る形で進みます。
スーパースターの孤独、スターを演じるしんどさ、精神が蝕まれるほどのすべてのやりすぎ、頂点から落ちる怖さ。そんなところは、僕の人生からは共感することはできませんが、内気だった少年時代、他人との関係の生きづらさ、数少ない本物の友情などは何とか、一般人にも共感を得ることができるのではないでしょうか。
更生施設で、語りはじめはステージ衣装で、少しずつそれを脱ぎ捨て、最後はプーマの私服になっていくのと並行して、自分を少しずつさらけ出してていくストーリーになっています。

ステージ衣装の再現、世間を賑わしたゴシップ、エピソード満載で、ファンであればたまらんでしょうが、私には関係ありません。でも、歌詞とストーリー、喜怒哀楽とメロディがシンクロし、何度も泣きそうになりました。

映画が本当かどうか分かりませんが、Elton の作曲は、Bernie Taupin の詞を見てメロディが浮かんでくる、ようなスタイルだったのが驚きでした。あの秀逸なメロディは、メロディを作って、詩をつけるのではなく、詞からインスパイヤされてできていたなんて。
そういう意味では、Bernie Taupin の作詞力は、Elton のインスピレーションの源だったとも言えるわけで、70年代中盤にコンビを解消して以降、Elton が少し低迷していくのもわかるような気がします。

それにしても、Dylan の “Jokerman”“Rocket Man” 似ていると思うのは僕だけでしょうか。

Directed by Dexter Fletcher
Cast : Taron Egerton, Jamie Bell, Richard Madden, Gemma Jones, Bryce Dallas Howard

The Mexican (2001)

ロード・ムービー、ロマンチック・コメディ、犯罪アクション。

基本的にはコメディなので、最後ハッピーな気分になれます。
でも、途中で何人も人が死にます。

メキシカンなバック・ミュージックがまたいいですね。
トンネルの緑のライトやポンコツの車、乾いた平原なんかはメキシコなんでしょうね。

サマンサが行動をともにする殺し屋リロイはゲイ。男女の関係を超えることで、次第に友情が芽生えます。ジェリーとは離れながらも、リロイとの会話でジェリーへの思いを見直していきます。

ジェリーは伝説の拳銃「メキシカン」を手に入れるためメキシコに行きますが、ホント、これでもかというくらいいろんなことが起こり、全然うまく事が運びません。そこを何とかやり繰りしながら物語は進みますが、犯罪組織の裏の思惑でさらにトラブルが。

キーワードは "Never"。愛し合っている二人の関係は決して終わらない。結論的にはハッピーなのです。
まあ、なかなか面白いエンターテインメントでした。

Directed by Gore Verbinski
Written by J.H. Wyman
Cast: Brad Pitt, Julia Roberts, James Gandolfini, Gene Hackman...

2020年5月31日日曜日

今夜、ロマンス劇場で (2018)

つい、なんとなく観てしまいましたが、うーん、観なくてもよかった。

銀幕のヒロインが現実世界に舞い降りて、主人公と恋に落ちるというファンタジー・ラブ・ロマンス。
見ようによっちゃ、現実の女性に興味がなく、映画の中の女性と一生恋している、というちょっと特殊な人に見えなくもない。
映画スターがこの世に紛れ込んできたこと自体、夢だったら、ってことで。
ヒロインは現実の人間に触れることができない、という設定だし、歳はとらないし。

でもこれが現実だとしたら、この一途な思いは素敵なものです。

このシチュエーション、誰が共感するんだろうか。
2次元にしか恋できないオタクの人か、わがままを通したい女の人かなぁ。

監督:武内英樹
脚本:宇山佳佑
綾瀬はるか、坂口健太郎、本田翼、北村一輝、中尾明慶、加藤剛

2020年5月27日水曜日

万引き家族 (2018)

こんなに心を揺さぶられた映画は久しぶりです。

偽りの家族の話です。
6人家族ですが、みな血はつながっていません。
夫婦のように見えて、結婚はしていません。子供のように見えて、拾ってきた子供。
知らないおばあちゃんの家に住み込み、さらにおばあちゃんの前の夫の娘(血は繋がっていない)も一緒に住んでいます。

みんなその日暮らし。でも努力していい暮らしをしようなんて思っていません。
しかも善悪の区分がゆるい。
盗むことは平気で、子供にも万引きを技術として教えてます。
前の夫の家からお金をもらっていて、パチンコが趣味。1人暮らしと偽って年金をもらっています。
風俗のバイト。殺人の前科。隠し事と嘘ばかり。

最低レベルの暮らしで、ダメ人間ばかりですが、みんな人には優しいんですよね。
途中でスイミーの話が少しだけ出てきます。小さな魚が集まって、大きな魚に立ち向かうという。
家族って、元はそんなものだったのでしょう。人間は弱い動物なので集まって生活して、強い敵から身を守る。
弱い存在がいたわり合って、癒し合って。

前半はハッピーへと向かい、夕立、海水浴、花火で最高潮を迎えます。
一方、誘拐、解雇、息子の善悪の目覚め、とまずいことの伏線もいくつか重なっていきます。
そしておばあちゃんの死を境に反転し、息子の起こした事件で一気に家族は瓦解していきます。
最後は、家族から離れ、それぞれがそれぞれの道へ。

なんでこの人たちは一緒に暮らしてるんだろう。血のつながりもなく、金でもなく、体でもなく、打算でもなく、深い愛でもない。
少しの優しさといたわりか。
家族って、そういうもんだろ、と是枝監督は言っているようです。
現代の「普通の」家族は求めすぎているような気もします。血のつながり、愛、豊かな暮らし、教育、絆、正しさ。
そんなものなくても家族なんだと思うと、気が楽になります。

バラバラになった後にそれぞれの道へ進んだ家族たちは、家族であった時間に癒されて、新たな道へと進んで行きます。それでいいのだ。

サイドストーリーは、子供の成長。妹ができ、責任感が出てきて、盗むことが悪いことと気づき、父を超えていく。最初の頃と比べると、最後はすっかり大人です。寒い時期から始まり、雪で終わるから1年くらいかな。

リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林といった役者の怪演があっての映画かもしれません。細野さんのサウンドトラックもいいです。

監督・脚本:是枝裕和
音楽:細野晴臣
リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、樹木希林、城桧吏、佐々木みゆ、池松壮亮、柄本明、緒形直人、高良健吾、池脇千鶴

2020年5月16日土曜日

野火 (2015)

塚本晋也監督の方です。

大岡昇平の小説を初めて読んだときは、かなりの衝撃を受けました。
戦争小説なのにほとんど戦闘シーンは出てこず、ほとんど飢えの記述。日本が戦ってきた太平洋戦争とはこういうものだったのかと驚愕しました。
敵を倒すとか、作戦に勝利するとかと全く関係なく、自分自身が生き延びるための戦いがこれでもかというくらい書かれてありました。
小説なので、事実とは違うし、小説の主題に焦点を絞った書き様なので、これが太平洋戦争の全てではないとは思いますが。

太平洋戦争のターニングポイントとなったミッドウェー海戦が1942年。そこからなんと3年も負け戦を続け、無策に玉砕を強要する戦争指導者の無能さは悔しいばかりです。

この凄惨極まりない物語をよく映像化しようと思ったな、と思いましたし、心象風景が主になっている小説なので、かなり映像化も難しいのではと思います。
さらに、高等な文体での完成された文章は、映像が勝ることはできないと思うのですが。

塚本晋也監督は、20年も構想したらしいので、やっぱりどういう表現がいいのかすごく考えたんでしょうね。かなり映像がクリアなので最初はなんだかチンケな感じを受けるのですが、リアリティというより、言いたいことをストレートに言う、というスタイルなんでしょうか。あまりに凄惨で、吐き気がするほどでしたが、ぐいぐいと引き込まれる力がありました。

映画「黒い雨」でも、戦争から帰ってきた気のふれた人が出てきますが、この異常な体験は精神に異常をきたすのに十分だと思います。
小説はもう一回読むのには勇気と覚悟が要ります。

2020年5月13日水曜日

This Is It (2009)


2009 年に Michael Jackson が死んだとき、僕の中で Michael はすっかり「過去の人」になっていました。
アルバム “Bad” (1987) の少しハードな路線にちょっとついていけなくなり、そのあとはあまり聴かなくなりました。今聴くといい曲も多いんですけどね。
そうしているうちにゴシップ裁判が始まり、整形とともに、ますます距離を置くようになり、そして突然の訃報。
何か不健康な匂いがしていたので、それほど驚きはなかったのを覚えています。

この映画は、死の直前まで続けられていたライブ・ツアーのリハーサル映像です。
“This Is It” と名付けられたツアーは7月のロンドンO2アリーナでスタートする予定でしたが、6月25日に Michael は急死してしまいます。
リハーサル映像では、不健康というのは僕の勝手なイメージだということが分かります。
何よりもショーを楽しみにして、期待していたのは Michael 自身で、そのために体調も万全に整えていたことでしょう。ロンドンに向けて全力を傾けている様子が伺えます。ただ、報道によれば、死因は睡眠薬の誤った投与だといいます。4月から不眠になり、そのために睡眠薬を投与されていたようです。12年ぶりのコンサート・ツアーで気持ちが昂っていたのかもしれません。

整形こそ不気味な感じを出していますが、それを除けば、ファンに最高のショーと、地球環境を救うメッセージを届けたいという意気込みが満ちています。そして、コンサートの演出家がストーリー建てしていますが、音楽とダンス、ショーを完全に掌握しているのは Michael 自身です。とても50歳には見えないキレもあります。
ミュージシャンも、ダンサーもスーパースターと一緒に仕事ができて、最高に高揚しています。

これは、リハーサル映像、ショーのメイキングの記録映像なので、この映画を見て Michael の人となりはあまり垣間見れないのが残念ですが、コンサートを楽しみにしていたファンのための映像としてはベストなものでしょう。ドキュメンタリーに徹していて、ドラマチックな演出がないのがいいところです。

2020年5月9日土曜日

世界の中心で、愛をさけぶ (2004)

記憶ってあいまいなもので、ラストシーンでは、主人公がオーストラリアの平原で叫んでいると思い込んでました。
長澤まさみはもちろん覚えてましたが、主演女優が柴咲コウだったことすら覚えてませんでした。

青春の恋愛と死はドラマの王道ですかね。
「君の膵臓を食べたい」はこの設定をなぞっているのでは、と思います。
違うのは、主人公の3人が不思議な縁で結ばれていて、それが物語の進行に沿って明らかになっていくところでしょうか。

死に対して、残された者はどう心を整理したらいいか分かりません。「ああすれば良かった」「なぜあのときああしなかったのだろう」という悔いばかりが残り、消えることはない。
時間が薄れさせてくれるのを待つしかありません。
区切りをつけるための儀式も必要で、それがこの映画ではオーストリアのウルルだったということでしょう。

僕の地元がロケ地になっていて、共感性が高くなるポイントです。こういうパターンは映画で地元を活性化しようという草分けだったように思います。

2020年4月26日日曜日

幸福の黄色いハンカチ (1977)

1977年ということは、私がテレビで見たのは中学生の時か。
ラストシーンが泣けたのと、「ミットもない」と言って高倉健が説教する台詞を覚えてます。
久々に観ると、意外とコミカルでした。山田洋次ですからね。武田鉄矢の動きなんかほぼ漫画です。

無骨な主人公の高倉健と、対比役の武田鉄矢と桃井かおりの3人で車で移動するロードムービーですが、ストーリーはこじれた男女関係と幸福感だろうと思います。
一方で、炭鉱という底辺に近い生活と、博多と川崎という都会に生まれた若者との感性の違いも表現してます。若者の姿は今に通ずるものがありますが、高倉健のような無骨な人はもういないかもしれません。

まだ私が中学の頃にこんな炭鉱町があったのが驚きです。

2020年4月23日木曜日

赤ひげ (1965)

設定は江戸年間ですが、現代の物語だなと思いました。喋り方も現代風だし、貧困や男女の情などはまさしく現代です。

何と言っても加山雄三の演技が光りますが、彼が演じるのは、まさしく子供っぽさが残る現代っ子です。
一方で三船敏郎の台詞は、短く鋭く脚本されていて、ヘミングウェイのハードボイルドのようです。彼だけが江戸時代から出てきたように感じます。いやあ、かっこいい。

3人の患者の物語が順番に出てくるところなどは、連続テレビドラマですね。
死んでいく2人の患者の生き様を描く前半、何と休憩を挟んで、後半は回復する若い女の子の物語。後半のストーリーは山本周五郎の原作からではなく、何とドストエフスキーのストーリーが下敷きらしい。

心が真っ直ぐで、爽やかさを感じる素晴らしい映画です。

2020年4月9日木曜日

Breakfast at Tiffany’s (1961)

Audrey Hepburn の美しさと、主人公の自由奔放さが印象に残る映画でした。

この映画は Audrey Hepburn なしでは語れないように思うのですが、なんと当初は Marilyn Monroe をイメージしていたらしいので驚きです。ちょっと想像できません。
このとき Audrey は長男を出産した直後らしいのですが、それも驚きです。

途中で、主題歌 "Moon River" を窓辺でギターの弾き語りをしているシーンがあるのですが、なんと指の細くて長いこと! 同じ人類とは思えません。

主人公女性の自由奔放さは、Fitzgerald 的な要素を受け継ぎ、実にアメリカ的です。作者の Truman  Capote の周りにいた複数の友人たちの合成だと言われていますが、どっちにしてもこんな個性の片鱗を持っている人が実在してるんだから、すごい国です。これは時代なのか、今もそうなのか。

小説は1940年代の場面設定ですが、映画は作られたときの1960年代です。それも含めて原作は映画とちょっと違うらしいので、ちょっと読んでみたくなりました。村上春樹も翻訳してるしね。

2020年3月29日日曜日

ピンポン (2002)

ギャグ映画かと思ってましたが、熱いスポーツ映画でした。意外!

今ではおっさんですが、この当時は若かったんですね。井浦新とかが高校生を演じてるんで、なんか違和感ありました。窪塚洋介、井浦新、中村獅童、大倉孝二などが出てて、今となれば豪華なメンバーです。

漫画の映画かなんで、やっぱ漫画チックなんですが、そこを窪塚洋介が上手く演じてて、かつFXの演出がわざとらしくない範囲で盛り上げてます。
高校生の青春ですが、色恋沙汰ゼロ、卓球一筋。才能と努力、夢と挫折、壁と飛翔、苦悩と快楽、少年時代と現在。
一部の卓球エリートの物語ではありますが、誰にでもあり得そうな、自分自身の物語でもあります。

今や卓球はカッコいいスポーツですが、この当時は暗いスポーツの代表だったことを思うと、画期的です。
スポ根ではない、スポーツ映画。宮藤官九郎の脚本が冴えてます。

2020年3月22日日曜日

武士の家計簿 (2010)

歴史学者磯田道史の著書「武士の家計簿 「加賀藩御算用者」の幕末維新」を元にした森田芳光監督作品。
原作がドラマではないので、これを映画にしようと思ったのがすごい。

磯田氏は、古文書を丁寧に読み解き、幕末から明治にかけての武士の姿を炙り出しています。

御算用掛という、武士のような武士でないような、江戸後期のいわゆる官僚の姿ですが、明治維新という武力革命を経て、こういう能力がある者が主役になっていく時代背景がドラマチックです。

映画的には、江戸・明治の親子の情、お城への郷愁というところが泣けます。

地中海殺人事件 (1982)

原作は Agatha Christie のポアロ・シリーズの1941年の推理小説 "Evil under The Sun"。

イタリアの東のアドリア海の孤島で起きた、殺人事件を扱ったものですが、現代の東野圭吾などのミステリーを知ってしまった今では、何とも古臭い感じです。江戸川乱歩的というか。(事実、江戸川乱歩はこの小説を評価しています。)
しかも少しコメディタッチ。

どういうニーズでこういう映画が作られるのか。

2020年3月7日土曜日

グーグーだって猫である (2008)

猫好きのための映画ですね。
猫との交流を、毎日の何気ないエピソードを交えて綴っています。
時にそれなりの変化はありますが、ドラマチックなストーリー展開はなく、ただ流れていく。
ただそれだけ。

小泉今日子は、この時何歳だったんだろう。オレと同い年だから42か。カッコいいですね。
音楽は細野晴臣。ゆるい感じが合ってます。

2020年2月22日土曜日

The Killing Fields (1984)

久々に見ましたが、なんとなく覚えていたストーリーとだいぶ違っていました。最後の "IMAGINE" がもっと大きなサウンドで、大きくクローズアップされていたような印象があったのですが。

映画は大きく2部に分かれ、クメール・ルージュが政権を取るまでの、米国新聞記者の取材とカンボジアからの脱出まで、それと友人のカンボジア人新聞記者がポル・ポト政権によって強制労働させられ、隣国に脱出するまでの構成になっています。
いずれも緊張と恐怖が支配し、Mike Oldfield のサウンド・トラックがさらにその緊張感を増す効果を出しています。

ちなみに、キリング・フィールドとは「処刑場」。ポル・ポト政権の国民虐殺の場のことです。
原始社会を理想とする極端な共産政策で、国民の1/5を殺したと言われるポル・ポト政権下の75年から79年。その3〜4年間こそが、キリング・フィールドでの大量虐殺が行われた時期で、映画の2部目にあたります。その実態のごく一部しか表現していないと辛く評価する人もいます。それほど凄惨な社会実験と密告社会だったのでしょう。

ヒトラー、スターリン、毛沢東、ポル・ポト。猜疑心と理想を追い求める姿と改革。これらは親和性が強いんでしょうね。規模こそ小さいですが、どこの改革の場にも存在することを肝に銘じなければなりません。

2020年2月8日土曜日

学校 (1993)

Amazon
今、こんなものがあるのかどうか分かりませんが、夜間中学の話です。

先生は、生徒を人生の先輩と言い、生徒は自ら学びたいと学校に来る。
高校じゃなくて、大人になって中学で学ぶって、よっぽどの人生です。
以前、勤め先の近くの夜間高校の卒業式に行ったことがありますが、近いものを感じました。

かといって、過度にお涙ちょうだいではなく、比較的淡々と進んでいくところに山田監督の技を見ることができます。主人公の先生だって、ものすごくいいことを言うわけではないですし、愛情が熱すぎるわけでもありません。

味わい深い映画です。