2021年8月15日日曜日

Trouble with the Curve 人生の特等席 (2012)

Clint Eastwood、"Arrival" の Amy Adams、”Justified" の Justin Timberlake の3人が出演して、つまらないわけがありません。

良い短編小説を読み終えたときのような気持ちのよさがあります。
ストーリー自体は無理があったり、矛盾があったりと、細かいことを言えばおかしなところばかりなんですが、全体の雰囲気の前では、どうでもいいことのように思えます。

テーマは父親と娘。
よくありがちなようなすれ違い。
ただ、娘が父を求めているところが普通と違うところでしょうか。
頑固な年老いた父親は変われず、最後には娘はそれを「あるがまま」に受け入れることにより救われまます。

新しい人生のスタートのハッピーエンディングが清々しいです。

タイトルは、ベースボールプレーヤーがカーブを打てないこと。父親の職業、スカウトから来ています。"Gran Torino" で役者からの引退を表明した Eastwood を無理やり担ぎ出したのは正解です。ちょっと年取りすぎたかな。


監督・Robert Lorenz
脚本:Randy Brown
出演:Clint Eastwood, Amy Adams, Justin Timberlake


Watch on Apple TV

2021年8月14日土曜日

Ex Machina (2014)

Ex Machina" というのはよく考えられたタイトルだと思います。
ラテン語で「機械仕掛けの」という意味ですが、英語的には「元機械」とも読み取れます。
本来の語源だと思われる "deus ex machina" は古代ギリシャの演劇の演出技法で、劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥ったとき、絶対的な力を持つ存在(神)が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させるという手法です。つまり最後には何とかうまくいくことを想起させます。
AI アンドロイドは、もちろん機械ですし、AI によって意思を持ったボディは元機械とも暗喩できます。そして、エンディングでは生み出した人間の想いのとおり...

ディープラーニングが注目され出したのが2012年。2000年代の前半には Google は WEB 検索の世界で圧倒的な存在になっていました。そういう時代背景の中だからこそ、検索と AI とアンドロイドを結びつけ、CG 技術を組み合わせた、時代に即した映画が作れたんでしょう。

作者であり監督の Alex Garland の好きな映画は「地獄の黙示録」だそうで、この映画のアンドロイド創作者 Nathan は現代のカーツ大佐のようにも見えました。

圧倒的大自然(ロケ地はノルウェーだそうです)と現代建築と現代家具の中で繰り広げられる、静かで異常な精神世界に引き込まれます。


監督・原作:Alex Garland
出演:Alicia Vikander, Domhnall Gleeson, Oscar Isaac


Watch on Apple TV

2021年8月13日金曜日

42 〜世界を変えた男〜 (2013)

Jackie Robinson の戦後からメジャー・リーグ1年目までを描く映画で、主役は Jackie Robinson と、ブルックリン・ドジャーズの会長 Harrison Ford 演じる Branch Rickey です。

人種差別にもめげず、ベースボール・プレーヤーとして成功した、というのが Jackie Robinson の成し遂げたことですが、この映画では、専ら前者にスポットライトが当てられています。
トイレは区別され、ホテルからは宿泊を拒まれ、シャワーを一緒に浴びるのも気を使い、チームメイトに拒絶署名をされ、試合相手から出場すれば試合しないと脅され、球場ではブーイング。死球、ベースプレーの嫌がらせ、相手監督からのヤジ、同僚への脅しの手紙。
今では考えられない社会的イジメですね。アメリカの恥部と言ってもいいでしょう。

救いなのは、やはりスポーツが実力の世界だということですかね。実力ある者は認められる、活躍する者は称えられる。
そういう意味では、Jackie Robinson は才能に恵まれ、結果を残したからこそ「42」はメジャー・リーグで永久欠番になっているのだと思います。
ベースボール・プレーヤーはベースボールで結果を残すことが評価の全てですが、Jackie Robinson はそれに加えて、人格面も評価対象にされたのが大変だったでしょう。

政治家や経営者は人格が一番重要ですが、スポーツ、芸術、芸能、技術の世界は、その実力が一番重要で、結果が全てです。そこには人種の入り込む余地は無いし、人格もあまり必要とされません。
そういう意味で、今回のオリンピックの小山田圭吾の音楽が使われなくなった経緯は何とも気持ちのいいものではありませんでした。作り出した音楽で評価されるべきところを、人格批判の的となり、作った音楽まで追放されてしまった。もともとミュージシャンなんて人格破綻者ばかりの世界です。麻薬に溺れた人は数知れず、暴力、金銭トラブル、女性トラブルなど。小山田圭吾のやったことは一切認められませんが、彼の作る音楽は支持します。第一、オリンピック自体崇高な理念を掲げようとしていますが、結局国別対抗の政治・民族要素の強い、真の意味での実力主義ではない世界じゃないですか。

話がそれましたが、パイオニアに求められる実力以外の障壁は想像を絶することでしょう。女性管理職第一号なんてのも同じかもしれませんし、最初の LGBT カミングアウト者の入社なんてのも同じかもしれません。
何にせよ、「最初の」というのは大変なんです。

黒人を起用した Branch Rickey は、野茂を迎え入れた Peter O'Malley 氏にも重なります。西海岸のアジア・コミュニティの成長と日本企業の世界進出を見据えて日本人選手を獲得した手法は、ニューヨークの戦後の黒人コミュニティに眼をつけた Branch Rickey から学んだことに違いありません。

イチローの活躍が、ベースボールの面白さと Jackie Robinson を思い出させたことも思い起こされます。

監督・脚本:Brian Helgeland
出演:Chadwick Boseman, Harrison Ford, Nicole Beharie



Get it on Apple TV

精武門 Fist of Fury ドラゴン怒りの鉄拳 (1972)

日本統治下の上海租界を背景に、日本人武道集団と、中国人武道集団との抗争を描いた、完全 Bruce Lee のためのカンフー映画。

精武門というのは、上海精武体育会をモデルにした精武館という武道館の武術およびその教えのことです。

武術集団間の抗争がメインテーマなので、前作と違い、見どころはカンフーシーンしかありません。
今回は初めて、ヌンチャクを使用しています。
Bruce Lee の身のこなし、フットワーク、力んだ決めポーズ、怪鳥音とも完璧です。
対する相手の武術のチンケさが何とも間抜けで、なんだろう、空手なのか、柔道なのか。最後には日本刀持ち出してくるし。

ストーリー的には、「仁義なき戦い」のようなものですが、徹底的に「日本人=悪」で描かれているのが切ない。1970年代の中国の精神世界は、香港と言えども大戦中の反日が底辺にあるんでしょうね。


監督:Lo Wei
製作:Raymond Chow



AppleTVで入手

2021年8月11日水曜日

唐山大兄 The Big Boss ドラゴン危機一発 (1971)

Bruce Lee の香港での出世作。

カンフー映画にしては、まともなストーリーですかね。
舞台はタイですが、言語は中国語。広東語か北京語かはあまりよく分かりません。
以後の映画にあるような、武道家の設定ではないので、アクションもカンフーというよりはケンカとして扱われています。

「唐山」というのは中国の東北部の地名で、出稼ぎに来ている中国人コミュニティの田舎です。なぜ香港近くではないのか、と思いますが、出稼ぎ=東北といった典型があるのかもしれません。その辺りはよく分かりません。
タイトルは仲間が全員殺される中で、最後まで一人で闘う唐山コミュニティの頼れるリーダーって感じでしょうか。
それにしても日本タイトルは酷すぎます。

氷からポロッと麻薬が出てきたり、人型に壁がぶち抜かれたりと、香港B級映画ぶりも魅力なのか。



Get it on Apple TV