2020年5月31日日曜日

今夜、ロマンス劇場で (2018)

つい、なんとなく観てしまいましたが、うーん、観なくてもよかった。

銀幕のヒロインが現実世界に舞い降りて、主人公と恋に落ちるというファンタジー・ラブ・ロマンス。
見ようによっちゃ、現実の女性に興味がなく、映画の中の女性と一生恋している、というちょっと特殊な人に見えなくもない。
映画スターがこの世に紛れ込んできたこと自体、夢だったら、ってことで。
ヒロインは現実の人間に触れることができない、という設定だし、歳はとらないし。

でもこれが現実だとしたら、この一途な思いは素敵なものです。

このシチュエーション、誰が共感するんだろうか。
2次元にしか恋できないオタクの人か、わがままを通したい女の人かなぁ。

監督:武内英樹
脚本:宇山佳佑
綾瀬はるか、坂口健太郎、本田翼、北村一輝、中尾明慶、加藤剛

2020年5月27日水曜日

万引き家族 (2018)

こんなに心を揺さぶられた映画は久しぶりです。

偽りの家族の話です。
6人家族ですが、みな血はつながっていません。
夫婦のように見えて、結婚はしていません。子供のように見えて、拾ってきた子供。
知らないおばあちゃんの家に住み込み、さらにおばあちゃんの前の夫の娘(血は繋がっていない)も一緒に住んでいます。

みんなその日暮らし。でも努力していい暮らしをしようなんて思っていません。
しかも善悪の区分がゆるい。
盗むことは平気で、子供にも万引きを技術として教えてます。
前の夫の家からお金をもらっていて、パチンコが趣味。1人暮らしと偽って年金をもらっています。
風俗のバイト。殺人の前科。隠し事と嘘ばかり。

最低レベルの暮らしで、ダメ人間ばかりですが、みんな人には優しいんですよね。
途中でスイミーの話が少しだけ出てきます。小さな魚が集まって、大きな魚に立ち向かうという。
家族って、元はそんなものだったのでしょう。人間は弱い動物なので集まって生活して、強い敵から身を守る。
弱い存在がいたわり合って、癒し合って。

前半はハッピーへと向かい、夕立、海水浴、花火で最高潮を迎えます。
一方、誘拐、解雇、息子の善悪の目覚め、とまずいことの伏線もいくつか重なっていきます。
そしておばあちゃんの死を境に反転し、息子の起こした事件で一気に家族は瓦解していきます。
最後は、家族から離れ、それぞれがそれぞれの道へ。

なんでこの人たちは一緒に暮らしてるんだろう。血のつながりもなく、金でもなく、体でもなく、打算でもなく、深い愛でもない。
少しの優しさといたわりか。
家族って、そういうもんだろ、と是枝監督は言っているようです。
現代の「普通の」家族は求めすぎているような気もします。血のつながり、愛、豊かな暮らし、教育、絆、正しさ。
そんなものなくても家族なんだと思うと、気が楽になります。

バラバラになった後にそれぞれの道へ進んだ家族たちは、家族であった時間に癒されて、新たな道へと進んで行きます。それでいいのだ。

サイドストーリーは、子供の成長。妹ができ、責任感が出てきて、盗むことが悪いことと気づき、父を超えていく。最初の頃と比べると、最後はすっかり大人です。寒い時期から始まり、雪で終わるから1年くらいかな。

リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林といった役者の怪演があっての映画かもしれません。細野さんのサウンドトラックもいいです。

監督・脚本:是枝裕和
音楽:細野晴臣
リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、樹木希林、城桧吏、佐々木みゆ、池松壮亮、柄本明、緒形直人、高良健吾、池脇千鶴

2020年5月16日土曜日

野火 (2015)

塚本晋也監督の方です。

大岡昇平の小説を初めて読んだときは、かなりの衝撃を受けました。
戦争小説なのにほとんど戦闘シーンは出てこず、ほとんど飢えの記述。日本が戦ってきた太平洋戦争とはこういうものだったのかと驚愕しました。
敵を倒すとか、作戦に勝利するとかと全く関係なく、自分自身が生き延びるための戦いがこれでもかというくらい書かれてありました。
小説なので、事実とは違うし、小説の主題に焦点を絞った書き様なので、これが太平洋戦争の全てではないとは思いますが。

太平洋戦争のターニングポイントとなったミッドウェー海戦が1942年。そこからなんと3年も負け戦を続け、無策に玉砕を強要する戦争指導者の無能さは悔しいばかりです。

この凄惨極まりない物語をよく映像化しようと思ったな、と思いましたし、心象風景が主になっている小説なので、かなり映像化も難しいのではと思います。
さらに、高等な文体での完成された文章は、映像が勝ることはできないと思うのですが。

塚本晋也監督は、20年も構想したらしいので、やっぱりどういう表現がいいのかすごく考えたんでしょうね。かなり映像がクリアなので最初はなんだかチンケな感じを受けるのですが、リアリティというより、言いたいことをストレートに言う、というスタイルなんでしょうか。あまりに凄惨で、吐き気がするほどでしたが、ぐいぐいと引き込まれる力がありました。

映画「黒い雨」でも、戦争から帰ってきた気のふれた人が出てきますが、この異常な体験は精神に異常をきたすのに十分だと思います。
小説はもう一回読むのには勇気と覚悟が要ります。

2020年5月13日水曜日

This Is It (2009)


2009 年に Michael Jackson が死んだとき、僕の中で Michael はすっかり「過去の人」になっていました。
アルバム “Bad” (1987) の少しハードな路線にちょっとついていけなくなり、そのあとはあまり聴かなくなりました。今聴くといい曲も多いんですけどね。
そうしているうちにゴシップ裁判が始まり、整形とともに、ますます距離を置くようになり、そして突然の訃報。
何か不健康な匂いがしていたので、それほど驚きはなかったのを覚えています。

この映画は、死の直前まで続けられていたライブ・ツアーのリハーサル映像です。
“This Is It” と名付けられたツアーは7月のロンドンO2アリーナでスタートする予定でしたが、6月25日に Michael は急死してしまいます。
リハーサル映像では、不健康というのは僕の勝手なイメージだということが分かります。
何よりもショーを楽しみにして、期待していたのは Michael 自身で、そのために体調も万全に整えていたことでしょう。ロンドンに向けて全力を傾けている様子が伺えます。ただ、報道によれば、死因は睡眠薬の誤った投与だといいます。4月から不眠になり、そのために睡眠薬を投与されていたようです。12年ぶりのコンサート・ツアーで気持ちが昂っていたのかもしれません。

整形こそ不気味な感じを出していますが、それを除けば、ファンに最高のショーと、地球環境を救うメッセージを届けたいという意気込みが満ちています。そして、コンサートの演出家がストーリー建てしていますが、音楽とダンス、ショーを完全に掌握しているのは Michael 自身です。とても50歳には見えないキレもあります。
ミュージシャンも、ダンサーもスーパースターと一緒に仕事ができて、最高に高揚しています。

これは、リハーサル映像、ショーのメイキングの記録映像なので、この映画を見て Michael の人となりはあまり垣間見れないのが残念ですが、コンサートを楽しみにしていたファンのための映像としてはベストなものでしょう。ドキュメンタリーに徹していて、ドラマチックな演出がないのがいいところです。

2020年5月9日土曜日

世界の中心で、愛をさけぶ (2004)

記憶ってあいまいなもので、ラストシーンでは、主人公がオーストラリアの平原で叫んでいると思い込んでました。
長澤まさみはもちろん覚えてましたが、主演女優が柴咲コウだったことすら覚えてませんでした。

青春の恋愛と死はドラマの王道ですかね。
「君の膵臓を食べたい」はこの設定をなぞっているのでは、と思います。
違うのは、主人公の3人が不思議な縁で結ばれていて、それが物語の進行に沿って明らかになっていくところでしょうか。

死に対して、残された者はどう心を整理したらいいか分かりません。「ああすれば良かった」「なぜあのときああしなかったのだろう」という悔いばかりが残り、消えることはない。
時間が薄れさせてくれるのを待つしかありません。
区切りをつけるための儀式も必要で、それがこの映画ではオーストリアのウルルだったということでしょう。

僕の地元がロケ地になっていて、共感性が高くなるポイントです。こういうパターンは映画で地元を活性化しようという草分けだったように思います。