2025年10月7日火曜日

炎のランナー (1981)

1924年のパリオリンピックでの陸上競技を舞台にした英国ドラマです。

主人公の2人のイギリス人が金メダルを取った他、ケンブリッジ大学のメンバーが活躍したようです。
イギリスすごいやん的ナショナル映画のようにも捉えることができます。「トップガン」みたいに。

舞台は1920年代初頭、ということで第一次世界大戦が終わったばかり。
イギリスは閉鎖的社会で、主人公の一人エイブラハムスはユダヤ人であることに悩んでいます。
民族的にも宗教的にも排他的な社会だったんですね。
もう一人の主人公リデルはスコットランド人で、キリスト教の伝導の道を目指しており、日曜日の競技を拒むなど宗教位忠実な人物。中世的意識がまだ多く蔓延っていたのが分かります。
ケンブリッジ大学では、プロのコーチを雇うなどけしからん、といったアマチュアリズムが堅牢で、なんとも生きづらい感じがします。

そう思うと、この時代の生きづらさは今の時代の別の生きづらさと大して変わらんのでは、とも思えてきます。
そういった生きづらい世の中でも、精一杯自分の生を生きようとする人たちの姿を描いているのかな。

"Chariots of Fire" というのは、映画の最後に教会で歌われている "Jerusalem" (エルサレム)の中の一節で、William Blake が作った詩の一部のようです。"Jerusalem" はいくつかのスポーツでイギリスの国家的に扱われている曲で、イギリス万歳的意味を与えたかったんでしょうね。

「炎のランナー」といえば Vangelis のサウンドトラックが超有名。主題曲 "Titles" はインストでありながらビルボードの1位となっています。
シンセサイザーによる音色とメロディが素晴らしい。ちなみにシンセはヤマハCS-80だそうです。


  • 監督:Hugh Hudson
  • 脚本:Colin Welland
  • 出演:Ben Cross, Ian Charleson, Ian Holm, Alice Krige

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2025年8月16日土曜日

舟を編む (2013)

辞書を作るという地味な作業を小説にしようと思った着想が素晴らしい。

エピソードは出版業界の「あるある」なんでしょうか。

2009年から2011年にかけて雑誌に連載し、2012年に本屋大賞をとって、早速2013年に映画化されています。

NHKで連続ドラマにもなっていますが、辞書を作るという13年間の小説ですので、ドラマは無理でしょう、と思いました。

オタク気質の主人公の成長物語でもあります。
辞書作りは向いてるとしても、女性とトントン拍子にうまくいくのは流石に「ない」と思いました。
男性の妄想が入っているのだと確信しましたが、作者は女性でした。こういう恋愛に憧れたりするんだろうか。女性ファッション雑誌に連載されてたようなので、あながち共感を得られてないとも思えない。というか、共感を得るだろうとの読みのストーリーのはず。

登場人物が、皆辞書作りに情熱を持っていて、爽やかな視聴後感です。


  • 監督:石井裕也
  • 原作:三浦しをん
  • 出演:松田龍平、宮﨑あおい、小林薫、オダギリジョー、加藤剛 、黒木華


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2025年6月8日日曜日

半落ち (2004)

容疑者が完全に罪を認めるのが「完落ち」、一部認めるのが「半落ち」。

アルツハイマー病を患う妻を絞殺した警部の、殺人後の2日間の行動を追うミステリー。
警察、検察、弁護士、記者が真相を追います。
結局、犯人の警部の誠実で真摯な人柄が浮き彫りになっていく、という展開です。

ちなみに、刑事、検察官、弁護士は年齢は違うものの、同期という設定です。
警察での捜査、検察の調査を経て、裁判で真実が明らかになっていきます。
小説に忠実に映画化しようとしたせいか、映画の2Hの尺では舌足らずのところがあります(検察と警察の裏取引などは何のことか分かりませんでした)が、全体のストーリーにはあまり影響がないように思います。

今から20年前の映画ですが、ずいぶん時代が違うなと思いました。というか違和感を感じるくらいでした。
まず、けっこうな人がタバコを吸っている、事務所や公共の場でも。
ワープロはあるけど、デスクにはパソコンはない。
職場の中での上意下達が激しい。えらそうに命令口調。
女性は男社会に従属してる感じ。妻は夫に頼っており、家の中のことをやる存在。
この20年間で随分社会の規範は変わったもんだなと思います。

テーマの一つが認知症ですが、これは他人ごとではありません。時代が変わっても変わらない課題です。


  • 監督:佐々部清
  • 脚本:田部俊行、佐々部清
  • 出演:寺尾聰、柴田恭兵、伊原剛志、吉岡秀隆、原田美枝子、樹木希林、鶴田真由

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2025年5月25日日曜日

ミッドナイト・ラン (1988)

Midnight Run

真夜中の逃亡、的なタイトルかと思ってましたが、もちろんそういう意味も掛けてるんでしょうが、「簡単な仕事」というスラングみたいですね。一晩で終わる仕事ってことなんかな。
日本語訳のセリフの中でも「チョロい仕事だろ?」と出てきます。

その「チョロい仕事」がだんだん大変なことになって、人生のドラマが垣間見えてくるというストーリーです。
ベースはコメディタッチなので、シリアスな内容なんだけど、ストーリー展開が緻密すぎず、まあ気楽に観れます。
サウンドトラックも Huey Lewis 的な少し開放的な感じです。

イマイチ最初に入ってこなかったのが、保釈保証業者。日本ではあまり聞かんもんね。
被疑者に代わって保釈金を立て替える業者らしいです。その被疑者が保釈金を踏み倒そうとするので、それを捕まえるのがバウンティハンターらしいです。なので、保釈保証業者からの依頼で動くんですね。
古くは賞金稼ぎなので、懸賞が掛けられた被疑者を捕まえる、ということなんでしょうか。

主人公はそのバウンティハンターで、行方が分からなくなった保釈人を5日以内に引き渡す条件で仕事を引き受けます。行方をくらました理由は、保釈金の踏み倒しではなく、裏社会のボスから逃れるため。
主人公は、凄腕で、すぐに保釈人を見つけますが、そこから色んな展開があり、ドタバタが続いていくというもの。

アメリカンないい映画だと思いますが、映画を引き立てているのはやはり Robert De Niro でしょうね。
様々な役を驚くような演技で魅了する最高の俳優ですが、こういったコメディタッチの映画でも絶妙な演技をしてます。


  • 監督:Martin Brest
  • 脚本:George Gallo
  • 出演:Robert De Niro, Charles Grodin, Yaphet Kotto


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2025年5月18日日曜日

マネーボール (2011)

Moneyball

何回目かに観ました。好きなんです。
お金のない弱小チームが、統計を使って、評価の低いプレイヤーを安くスカウトし、チームづくりをしていくところが、なんだか自分の所属している会社やカープにダブらせて観てしまいます。

弱小といっても、ストーリー的に面白く言っているだけで、オークランド・アスレチックスですから、実際は名門チームです。
お金がある、なし、でいうとオーナー次第かもしれませんので、アメリカの事情はよく分かりませんが、オークランドですので、サンフランシスコですよね。客の入りが悪いってことはないと思います。
実際、この物語の10年ほど前には、José Canseco、Mark McGwire を擁して絶頂期を迎えています。

この物語は2001年シリーズ後に、Johnny Damon、Jason Giambi、Jason Isringhausen をFAで失うところから始まります。
スカウトは、Giambi の穴を埋める選手を必死に探しますが、正直それは無理というもの。いたとしても高額の年俸が必要になります。
で、主人公の GM Billy Beane は インディアンズから引き抜いたピーターの統計手法に賭け、素質より実績数値を重視する戦略をとり、安い選手を獲得することにします。他の球団では見向きされない選手を。
例えば、Jason Giambi の弟の Jeremy Giambi や Scott Hatteberg。Jeremy Giambi は素行が悪いことで有名で、打撃センスは兄とは程遠く、Scott Hatteberg は投げられない捕手。でもいずれも出塁率は高い、という感じです。

アウトを増やすバントはせず、糖類やヒットエンドランは成功確率の割には得点に結びつかないとして、やらない。
比較的、原作に忠実に映画化していますが、やはり情報量としては本の方が多いです。

2Hの映画では、Billy Beane の人生に焦点を当てていますが、全てを描き切れるわけではありません。
でも、エッセンスはよく分かります。

Billy Beane の目指す世界は、スモール・ベースボールの否定。足で稼ぎ、犠打でチャンスを作り、相手にプレッシャーをかける、といった日本の得意とする野球です。それよりも、四球やエラーで出塁し、ヒットや長打で点を取る野球ですから、大谷の世界に近いかもしれませんね。そんな中イチローの活躍は一石を投じたことでしょう。


  • 監督:Bennett Miller
  • 原作:Michael Lewis "Moneyball: The Art of Winning an Unfair Game" (2003年)
  • 脚本:Steven Zaillian, Aaron Sorkin
  • 出演:Brad Pitt, Jonah Hill, Philip Seymour Hoffman


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2025年5月17日土曜日

快盗ルビイ (1988)

公開当時に映画館で観て以来、30数年ぶりに観ました。

小泉今日子は僕と同い年だから、21,2歳の頃でしょうか。コケティッシュな魅力を出しています。

正直、和田誠監督、というくらいしか覚えてなかったので、新鮮に観れました。
共演は真田広之だったのも、改めてそうだったんだ、という感じです。「ルビイ」の本名が「瑠美」だったことも。
真田広之もさすが俳優ですね。ダメ男くんを好演しています。

ほのぼのとしたラブ・コメディは、和田誠の絵のような、独特の感じを出しています。表現者というのは、絵を描いても、映画を撮っても、文章を書いても、ユニークな自分を表現しちゃうんですね。

改めて見てみると、主題歌は大瀧詠一の曲だったんですね。こちらも「まさに大瀧詠一」という曲。


  • 監督:和田誠
  • 原作:Henry Slesar 「快盗ルビイ・マーチンスン」
  • 脚本:和田誠
  • 出演:小泉今日子、真田広之、水野久美

2025年3月16日日曜日

影武者 (1980)

当時、黒澤映画の大作、と喧伝されていたので、少し構えてたんですが、それほど堅苦しいものではありませんでした。

信玄に影武者がいて、死後世間を欺いていた、という設定で、主人公は、その影武者で小泥棒の男。
姿形が似ているというだけで、逆さ磔の刑から救い出された下賎の者。
仲代達矢が好演しています。

そもそも全く違う境遇に放り込まれて大変な目に遭いますが、そこがこの映画の「おかしみ」があるところ。
唯一孫には見抜かれてしまいますが、人がいいのか孫に好かれるあたりが、ただの市民ぶりを感じられて、ほっこりするところじゃないでしょうか。

人間模様だけをクローズアップすればいいところを、結構戦闘シーンに時間を使っちゃってます。
これだけで予算数倍でしょうね。
時代考証的には、サラブレッドのような痩身の馬、天守付きの城郭、駕籠、バンバンの鉄砲劇等、違和感ありありですが、分かっていながら、という映画的な対応でしょうね。
特に今回は、海外向けでもあったわけですから。
黒澤ファンの Coppola、Lucas が海外プロデューサーとして クレジットされてます。すごいですね。

主役の勝新太郎が撮影初日で監督と衝突して降板となったので話題になったのかな。そういえばそんな噂聞いたことがあったような。
勝新の小物ぶりも見たかったなあ。


  • 監督:黒澤明
  • 脚本:黒澤明、井手雅人
  • 出演:仲代達矢、山﨑努、萩原健一、根津甚八、大滝秀治、隆大介、油井昌由樹、桃井かおり、倍賞美津子


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