2024年3月24日日曜日

蜘蛛巣城 (1957)

シェークスピアのマクベスは知りませんが、なかなかよくできたストーリーですね。
もののけの予言が絡まってくるところはオリジナルにあるのかどうかは分かりませんが、結果もののけの言う通りに人間が動いていくのはなんだか深みがあります。

悲劇なので、ハッピーエンドとはなりませんが、そうだろうなというところに落ち着きます。

やっぱ三船敏郎は名優ですね。
旧主を殺害して城に入るときの、盟友に向けた戸惑いの表情や、徐々に気が細っていくところの変化なんかは、意外と繊細に表現してます。

効果的に使われている霧の発生、馬の疾走シーンの撮影方法など、映画技法がふんだんに使われています。

サウンドトラックがが悪いのか、早口だからなのか、何を言っているのか分からないところが多いのが残念です。


  • 監督 :黒澤明
  • 脚本 :小国英雄、橋本忍、菊島隆三、黒澤明
  • 出演 :三船敏郎、山田五十鈴、千秋実、志村喬

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デューン 砂の惑星 (2021)

Dune: Part One

Frank Herbert の「砂の惑星」を読むための予行演習として観てみました。

Lucas の「スターウォーズ」バリの誇大妄想の世界だったんですね。おそらく「スターウォーズ」にも多大な影響を与えたでしょう。
今回は "Part One" ということで、物語の前半を描いているようです。現在 "Part Two" が上映中ですが、そちらで物語は完結してるんでしょうか。Herbert の "Dune" のうちの第1作「砂の惑星」部分をカバーしているのかもしれません。

他の星で、大気と1Gがあり、言語が統一されているというプリミティヴな前提が、今となっては少し白けてしまいますが、そこをグッと我慢すると、まあまあドラマとしては面白い作りになってます。
サイエンス・フィクションじゃなくて、架空の世界を舞台にした大河ドラマと思えばいいんでしょうね。

皇帝とハルコンネン家とアトレイデス家の確執に、砂の民フレメンが絡む陰謀渦巻く世界。
過去からの因縁もあるので、理解しやすい設定ではありませんが、映画的にはそれを比較的分かりやすく表現してもらっていると思います。

Part One では主人公が窮地に陥り、最も厳しい局面に落ちるところまでが描かれていて、Part Two へのいい導火線になっているんですが、Part One だけだと爽快感は全くなく、重苦しい感触が残ります。

それにしても「ハルコンネン」とか「アトレイデス」とか「ベネ・ゲセリット」とかというややこしい固有名詞が連発される中、主人公の名前は「Paul」という最もありふれた名前の一つというのは驚きです。
もちろん Paul はキリスト教では重要な名前ですが、Herbert は読者に物語に入ってもらうために親近感を与えたかったんでしょうかね。

ということで、読書と Part Two はどうしよっかなぁ....


  • Director : Denis Villeneuve
  • Writers : Jon Spaihts, Denis Villeneuve, Eric Roth
  • Cast : Timothée Chalamet, Rebecca Ferguson, Oscar Isaac


https://wwws.warnerbros.co.jp/dune-movie/1/

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2024年3月20日水曜日

メメント (2000)

Christopher Nolan がアカデミー賞を受賞したのを記念して観てみました。
Nolan 監督の映画は以前『インターステラー』と『インセプション』を観たことがあるのですが、どちらも全く違う印象を受けました。
特に『インセプション』は展開が難解で、ヘンテコな映画だな、と思ったのを覚えています。

『メメント』はそれにつながるヘンテコな映画です。
ただし、SF的な要素は全くなく、現実世界での記憶障害という特異な状況を独特の手法で描いています。

原作は弟の Jonathan Nolan。
殺された妻の復讐劇ですが、ショックから記憶が10分しかない(ただし、以前の記憶はある)ために、行動に一貫性がなく、前後のつながりがありません。
はっと気づいたら、全く覚えのない場所、そこから毎回再開しないといけないというのはちょっと想像できませんが、認知症とかになるとこうなるのかなと思うと、身近に感じたりします。
そこに登場するサイドメンたち。麻薬売買と殺人の思惑が絡み合っていきます。
どの記憶のメモが正しくて、誰が嘘を言っているのか?
途中で挟み込まれるサミーの逸話が、実は主人公の記憶の取り違いであることが明らかにされますが、10分間の記憶の不確かさのみならず、確固とした過去の記憶の不確かさも問いかけられます。

物語の特異性を高めているのが、時間の流れです。
映画は最初の殺人から過去にさかのぼって記憶をたどるような流れになっています。
主人公の記憶はありませんが、見る人はその過去への流れを追体験するような形になっています。

映画の評判は口コミで拡がり、結果 Nolan 監督の出世作になりました。
ちなみにタイトルの「メメント」は「memento mori」つまり「常に死を意識せよ」のこと。
10分間の記憶が「今を楽しめ」ということなのか、劇中の多くの人の死のことなのか。深い意味は考えなくともミステリーとして秀逸な映画です。


  • Director : Christopher Nolan
  • Writers : Christopher Nolan, Jonathan Nolan
  • Cast : Guy Pearce, Carrie-Anne Moss, Joe Pantoliano, Jorja Fox, Stephen Tobolowsky
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2023年12月10日日曜日

花束みたいな恋をした (2021)

この歳になってこんな映画を見るのはどうかと思いましたが、坂元裕二脚本ということだけで見てしまいました。

予想していたのと全く違って、タイトルどおり純度の高いラブストーリーでした。
2時間使って、恋愛の始まりから終わりまでを描いています。
最初に別れた後の二人が出てくるので、映画の最初から恋愛の終わりを内包してストーリーは展開していきます。

で、全部見終えた感想は「そうだよな」て感じ。
恋の最初もそうだし、終わりもそう。
同一化の夢を見て恋が盛り上がり、結局同一化は幻想だと思い知らされて、「どうでもよくなる」。
坂元裕二の恋愛観でしょうか。
映画の最初で二人が言います。「恋愛は一人に一つずつ、一緒に分けられない」。これがこの映画の本質でしょう。
確かにそういうところあります。

「推し」「ファン」も同じ構図ですよね。対象に自分を重ねて同一化を試みる。「推し」「ファン」の対象が遠くで実態が分からないのに対して、恋愛はすぐそばにいる対象なので、幻想に気づきやすい。悲しいけど。

この映画では恋愛以外もいくつかのサイドストーリーがあります。
一つはモラトリアム。こういう時期はみんな経験してるので、共感を呼ぶんでしょうね。そして就職してみんなつまらなくなる。この映画ほどじゃないけどね。

もう一つはサブカル。音楽、小説、映画、漫画。この映画で出てくるのはほぼ知りませんが、唯一きのこ帝国だけは分かりました(Awesome City Clubは聞いたことあるけど、音楽は聴いても分かりません)。2014年の出会いの時に「クロノスタシス」をカラオケで一緒に歌い、2019年の別れの時に解散したというエピソードが出てきます。
と言っても、僕も解散後の佐藤千亜紀のソロから知ったんで、後出しですが。

まあでもこういった青春恋愛映画見るのも悪くないですね。もう観ないかもしれませんが。
僕の人生も悪くなかったなと思えます。


監督:土井裕泰
脚本:坂元裕二
出演:菅田将暉、有村架純


https://hana-koi.jp

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2023年7月8日土曜日

ザリガニの鳴くところ (2022)

Where the Crawdads Sing

ザリガニは鳴きません。ザリガニ鳴き声(Sing)が聞こえるような、湿地帯の奥深く、ということでしょうか。

ノースカロライナの湿地で暮らす、家族に見捨てられた一人の少女。
人との繋がりはほとんどなく、街の人からは「湿地の娘」と蔑まれます。
人と関わらずとも、自然が友達であり、先生であり、保護者でもある、という特殊な環境。
それでも二つの恋をし、気にかけてくれる人に助けられ、湿地の自然の本を出版することも叶いました。
そこに起きる、恋人の変死。映画はそこから始まり、法廷劇を通じて彼女の半生が振り返られます。
彼女に偏見を持つ街の人が捌かれるべきと主張する弁護士の弁護もあり、無罪を勝ち取り、幸せな後半生を送ります。

暴力を振るう父と重なる暴力を振るう恋人。
ザリガニの鳴く湿地帯は彼女自身であり、その自然から学んだ知恵。そこに迷い込んだ恋人。
衝撃のラストを迎えます。

ミステリーなのか、ラブストーリーなのか、自然小説なのか、いまひとつはっきりしないところが魅力なのかもしれません。
非常に特殊な環境の主人公だけに、共感しづらいことこの上ないのですが、孤独という意味では現代に生きる私たちを描いているのかもしれません。

原作は、同名の2018年のベストセラー小説、作者の  Delia Owens は動物学者で、70歳の時に出した処女作が本作だそうです。これも驚き。


  • Daisy Edgar-Jones as Catherine "Kya" Clark
  • Taylor John Smith as Tate Walker
  • Harris Dickinson as Chase Andrews
  • David Strathairn as Tom Milton
  • Michael Hyatt as Mabel Madison

  • Directed by Olivia Newman
  • Screenplay by Lucy Alibar


https://www.sonypictures.jp/he/11155000


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2023年5月14日日曜日

セブン・デイズ・イン・ハバナ (2012)

7 dias en La Habana

キューバのハバナの日々。

月曜から日曜までの7日間を1話ずつ別の監督が撮った短編集です。

リゾート地としてのハバナの面はあまりなく、どうしようもない日常をただ綴っています。
ビジターとしてのハバナも3話で描かれていますが、まったく観光的ではないですね。

いくつかの短編では、音楽が重要な役割を果たしていて、やっぱキューバは音楽よね。

この中では映画祭に招かれた映画監督とドライバーの友情の芽生えを描いた火曜日が好きです。ドライバーがトランペッターで聴かせるためではなく、自分のために友人達とジャム・セッションをやっているのがカッコいいですね。


  1. El Yuma "ユマ" (Monday, Benicio del Toro)
  2. Jam Session "ジャム・セッション" (Tuesday, Pablo Trapero)
  3. La tentación de Cecilia "セシリアの誘惑" (Wednesday, Julio Medem)
  4. Diary of a Beginner "初心者の日記" (Thursday, Elia Suleiman)
  5. Ritual "儀式" (Friday, Gaspar Noé)
  6. Dulce amargo "甘くて苦い" (Saturday, Juan Carlos Tabío)
  7. La fuente "泉" (Sunday, Laurent Cantet)


https://eiga-watch.com/7-days-in-havana/

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2023年3月18日土曜日

真珠のボタン (2015)

チリの先住民への迫害と、ピノチェト独裁政権下の圧政を描いた映画です。
ドキュメンタリーになるんでしょうか。

南北アメリカ大陸はご存知のように、ヨーロッパからの入植者によって、先住民たちが住んでいた土地は奪われていきます。
先住民狩のようなものも行われていたようです。
今ではもうほとんど先住民の血を引く人はいません。
真珠貝のボタンは、先住民は使っていませんでした。ボタンはヨーロッパとの交流と迫害の歴史を思い起こさせます。

真珠のボタンが発見されたのは、海から。
海にはもう一つ暗い歴史があり、ピノチェト政権下で何千人もの人が殺され沈められたと言うのです。拷問の後、鉄道のレールにくくりつけられて、軍のヘリから海に捨てられました。

チリに生きる人たちにとって、忘れてはならない自分たちの歴史。告発と言うよりは、記憶にしっかり刻みたいということでしょうか。


監督・脚本:Patricio Guzman
制作:Renate Sachse

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