2025年3月16日日曜日

影武者 (1980)

当時、黒澤映画の大作、と喧伝されていたので、少し構えてたんですが、それほど堅苦しいものではありませんでした。

信玄に影武者がいて、死後世間を欺いていた、という設定で、主人公は、その影武者で小泥棒の男。
姿形が似ているというだけで、逆さ磔の刑から救い出された下賎の者。
仲代達矢が好演しています。

そもそも全く違う境遇に放り込まれて大変な目に遭いますが、そこがこの映画の「おかしみ」があるところ。
唯一孫には見抜かれてしまいますが、人がいいのか孫に好かれるあたりが、ただの市民ぶりを感じられて、ほっこりするところじゃないでしょうか。

人間模様だけをクローズアップすればいいところを、結構戦闘シーンに時間を使っちゃってます。
これだけで予算数倍でしょうね。
時代考証的には、サラブレッドのような痩身の馬、天守付きの城郭、駕籠、バンバンの鉄砲劇等、違和感ありありですが、分かっていながら、という映画的な対応でしょうね。
特に今回は、海外向けでもあったわけですから。
黒澤ファンの Coppola、Lucas が海外プロデューサーとして クレジットされてます。すごいですね。

主役の勝新太郎が撮影初日で監督と衝突して降板となったので話題になったのかな。そういえばそんな噂聞いたことがあったような。
勝新の小物ぶりも見たかったなあ。


  • 監督:黒澤明
  • 脚本:黒澤明、井手雅人
  • 出演:仲代達矢、山﨑努、萩原健一、根津甚八、大滝秀治、隆大介、油井昌由樹、桃井かおり、倍賞美津子


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2025年3月2日日曜日

遠い夜明け (1987)

Cry Freedom

この映画の原作本が出されたのが1978年。
この映画が封切られたのが1987年。
マンデラが解放されたのが1990年。
アパルトヘイト廃止宣言が出されたのが1991年。
アパルトヘイトが法的に廃止され、政権が変わったのが1994年。
この物語が始まった1975年から数えると20年近く年月を経ないと願いは叶えられませんでした。
実に「遠い夜明け」と言わざるを得ません。

1980年には Peter Gabriel が "Biko" という曲を出し、翌年には The Specials が "Nelson Mandela" を歌い、E Sreet Band の Little Steven Van Zandt らが1985年に Artists United Against Apartheid として “Sun City" を出し、同じ年に Stevie Wonder は "It's Wrong" を出しました。

そもそも1960年代にNelson Mandelaや Walter Sisulu や Robert Sobukwe らが投獄され、Thabo Mbeki らが国外に逃亡しして下火になっていた反アパルトヘイト運動を再活性化したのは、この物語の主人公とも言える Steve Biko の活動によります。
彼は学生運動を組織化し、黒人の意識向上を求めました。反白人主義ではなく、白人リベラルからの自立を主導していたようです。
政府による活動禁止後の動きはこの映画の中でもいくつか取り上げられています。
映画の中でも描かれた彼の葬儀には2万人が集まったと言います。

その彼の死を無駄にしないために、新聞の編集長だったもう1人の主人公 Woods は死の真相を暴く原稿を携えてイギリスへ逃亡しますが、この映画の後半はその逃亡劇が描かれています。これ、そんなにいらないんじゃないの?と思いましたが。

反アパルトヘイト運動の中で多くのリーダーが亡くなりましたが、彼もその1人です。
生き残った人が、アパルトヘイト後の政権でリーダーを務めていますが、生き残った人だけが英雄ではなく、こっやって犠牲になった人たちこそが英雄なんだろうと思います。
生きていれば、新政権の中で必ず要職に就いた人だったろうと思います。

  • 監督:Richard Attenborough
  • 脚本:John Briley
  • 原作:Donald Woods “Biko"(1978), "Asking For Trouble"(1981)
  • 出演:Kevin Kline, Denzel Washington, Penelope Wilton


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