2020年9月21日月曜日

七つの会議 (2018)

「半沢直樹」「下町ロケット」の流れに沿った、池井戸潤作品の映画です。

監督は「半沢直樹」シリーズの福澤克雄で、香川照之、及川光博、片岡愛之助、立川談春、北大路欣也など、ほぼファミリー化している俳優陣の中で、異彩を放っているのが主人公八角役の野村萬斎です。狂言師というのがどれほど映画俳優と共通項があるのか知りませんが、この存在感は独特です。飄々というか、気が抜けているというか、コミカルというか。

小説は読んでいませんが、元々7話で構成されていて、1話ごとに主人公が違うようです。1話ごとに主となる会議があるのでしょうか。第1話の主人公である八角が、映画の主人公になっています。

池井戸小説のテーマである企業エンターテインメント、サラリーマン応援歌ですが、テーマがデータ偽装。免振ゴム、アルミ鋼材、排ガスデータと偽装は絶えませんが、この映画のような巨悪があることはほとんどないのでは、というのが僕の実感です。確率論と経済性の天秤、異常値は除くという組織の論理が優先され、同調圧力と前からこうやっていたという追認で、悪意なく偽装に加担していく構図でしょうね。誰も悪くないだけにたちが悪い。

小さなことでも疑問を言える、変えることに躊躇しないという風土が大切なんでしょうね。

監督:福澤克雄
出演:野村萬斎, 香川照之, 及川光博

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2020年9月20日日曜日

海よりもまだ深く (2016)

是枝裕和監督はすごい!

「万引き家族」ではニセ家族を描いて癒されましたが、2016年のこの映画は、共感というか代弁というか深く心に入ってきました。

テーマは「こんなはずじゃなかった人生」。

結婚の破局、小説家稼業の挫折。こうあったらいいな、と願いつつ現状に満足できず、空虚な毎日を過ごす人生。

母の小さな財産をくすね、父の骨董を質入れし、ギャンブルに身を焦がす。

母は息子を優しく見守りながら、日々の中に幸せがあることをさりげなく諭します。

元妻は次の人生へスタートを切り、男は決心したのかしないのか、また人生の続きを始める。

永遠に子どもなのだ。でもいつかは子どもから脱する時が来るのか、大人にならないといけないのか。「愛と青春の旅立ち」のザックはフォーリー軍曹のしごきによって大人に旅立ちましたが。

「海よりもまだ深く」は、テレサ・テンの「別れの予感」の歌詞の一部、台風の夜のラジオで流れたときに、母が「海よりも深く人を愛したことはない」と言います。そんな劇的な恋がなくても人生って味わえるのだと。

過去も未来もなく、今生きているこの瞬間こそが全てなのだ、というのは禅の教えだったでしょうか。

しかし「こんなはずじゃなかった」「どこで間違えたのか」と悔やみながら、そのどうしようもない続きの人生を生きて行くのも人間。「今を生きる」。

結局この映画でも癒されました。

監督:是枝裕和
出演:阿部寛、樹木希林、真木よう子、小林聡美


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2020年9月9日水曜日

Darkest Hour (2017)

ウィンストン・チャーチル / ヒトラーから世界を救った男

ウィンストン・チャーチルの首相就任後1ヶ月の苦悩を描いた映画です。

チャーチルは電車にも乗ったことのない貴族であり、演説の得意な自信家であり、ドランカーであり、主戦派として描かれていて、事実そうだったと思われます。

首相就任の最初の演説は、自らの保守党から総スカン。保守党は、チャンバレンとハリファクスによる宥和派が主流だったからです。

ナチス・ドイツがベルギー、フランスへ進攻する中、いよいよ次はイギリスという状況になりつつあり、流石のチャーチルも、ドイツとの和平交渉へ動くかどうかを深く悩みます。

暗闇の部屋へ訪れたのは、ジョージ6世。気に食わないチャーチルに賛同します。そして市民の声を聞くようアドバイスします。市民の声に後押しを受けて、チャーチルは演説に臨みます。

政治家として1つ成長した、というストーリーかと思います。


ここでイギリスが踏ん張らなかったら、という意味で、チャーチルは自由主義陣営の英雄のごとく扱われます。宥和論の中で一人主戦論を張り、全体主義と戦った、と。

しかし、これこそ「勝てば官軍」ではないかと思ったりします。

日本も八紘一宇の理想を掲げて戦争をしました。僕が一番バカだと思うのは、パールハーバーを攻撃してから1年半後にはミッドウェーでターニングポイントを迎えておきながら、そのままま3年も戦争を続けた戦争指導者の無能さです。最後には本土玉砕を掲げて、市民を巻き添えにしていきます。

しかし、これはチャーチルと何が違うのか。チャーチルの勇気はかいますが、冷静さを欠いた判断だったかもしれません。多くの市民の犠牲を払いました。アメリカが参戦しなければ難しい局面に立たされていたでしょう。パールハーバーを一番喜んだのはチャーチルだったかもしれません。

歴史は勝者によって正当化されます。

日本は敗者になることによって、否が応でも反省することになりますが、おそらく勝者には反省はないでしょう。

Director: Joe Wright
Writer: Anthony McCarten
Cast: Gary Oldman, Lily James, Kristin Scott Thomas


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